【愛媛】冬に伝えたい、愛媛の手漉き和紙

 
 
 

8

 

こんにちは。愛媛の手仕事を調査しているNowvillage(ナウビレッジ)こと今村です。

冬は紙漉きに適した季節。そんなわけで、今回は“愛媛の手漉き和紙”についてご紹介します。

実は愛媛では、県内5つの地域で手すき和紙がつくられています。愛媛東端の四国中央市、東部の西条市、愛媛の中央に位置する内子町、西南部の野村町、南部の鬼北町など産地は県内全域に渡っています。しかも面白いのは、いずれも素材や製法が異なりそれぞれに特色があるというところ。

ひとつひとつ詳しく紹介していきたいのですが、今回は鬼北町でつくられている「鬼北泉貨紙(きほく・せんかし)」とその和紙職人さんについてご紹介します。

厚くて丈夫な和紙

4

紙漉きの直後、漉いた紙を重ねる瞬間

 

鬼北泉貨紙は、厚くて丈夫な性質が特徴です。特に柿渋が塗られたものは、撥水性や耐久性に優れた「強靭な和紙」となるため、昔は雨傘や合羽、ボウルなどに加工され、日用品として人々の暮らしを支えてきました。

紙なのになぜそんなに強いのかというと、その秘密は「紙漉き」にあります。紙漉きに使うのは泉貨紙用に作られた特注の簀桁(※1)。簀桁をつくる職人さんも驚くほど珍しい構造をした道具です。それで紙を漉いたら直後に2枚を重ね、1枚に仕上げていきます。こうすることで、1枚で2枚分の強度となるのです。

しかも1枚の中に二重の構造ができているため、完成した和紙を手で揉んだり擦り合せたりすると内側に空気が含まれ、より重厚な風合いになっていきます。ただ厚く漉くだけではないこのひと手間が、泉貨紙の強さに繋がっているのです。

 

1

広見川で楮を浸す「楮さらし」の様子

 

私が鬼北泉貨紙に出会ったのは、調査で鬼北町を訪れた去年の12月のことでした。町内を流れる四万十水系の広見川で、和紙の原料となる楮(こうぞ)を浸している場面にたまたま遭遇した時は、驚きと嬉しさが一気に込み上げてきました。

なぜかというと、楮を川に浸すことで不純物などを取り除きさらに太陽光によって白くさせる「楮さらし」は和紙づくりの伝統的な工程なのですが、今日では水質や環境の変化によって川ではなく専用の水槽などで楮を浸す地域も増えているため、希少な光景となりつつあるのです。

和紙職人・平野さんのこと

2

紙漉きをおこなう平野邦彦さん(工房にて)

 

もともと広見川沿いの集落では、明治の頃から農閑期の副業として和紙づくりが行われていました。高齢化などが進み需要も減ったことから昭和44年に生産は中止されますが、和紙漉きの伝統を守るべく鬼北泉貨紙保存会が昭和60年頃に発足されます。この保存会が以後30年に渡って活動を続け、泉貨紙を今に伝えています。

「昨日は雨が降りよったけん、水かさが増えて危うく流れるところやったんよ。」そんな話をしながら泉貨紙づくりについて詳しく教えてくれたのは、保存会4代目会長を務める和紙職人の平野邦彦さん。

平野さんが和紙づくりを始めたのは、今から15年前のこと。田舎暮らしを求めて栃木県から鬼北町へ引っ越してきた矢先に、たまたま近所の人が「和紙づくりやらんかい?」と声を掛けてくれたのがきっかけでした。

古式製法でつくる

5

楮の塵を手で取り除く保存会のメンバーたち。紙漉きの前の大事な作業

 

和紙づくりの原料配分や工程をまとめたものを平野さんたちは「レシピ」と呼んでいます。しかしこれらは口伝によって語り継がれているため曖昧なところが多く、時代や品種によっても多少の違いがあります。

平野さんは、保存会に入った当初からレシピを明確にするための研究を重ねてきました。師匠や地域にいる和紙づくりに詳しい先輩たちに話を聞いたり、過去につくられた泉貨紙を見たり、和紙に関する本を読むなどして先人たちの足跡を追いかけてきました。謎がひとつ解けると、目を輝かせて和紙の話をする平野さん。近くて遠い先人たちに想いを馳せながら、実践の中での研究は今も続いています。

6

板に貼って天日干しを行う様子

 

平野さんたちが守り続けているのは泉貨紙の歴史だけではありません。製作工程も、昔ながらの伝統的な手法で行っています。広見川で楮を浸す「楮さらし」をはじめ、不純物を手でひとつひとつ取り除く「塵取り」の作業、木板に張り付けて乾燥させる「天日干し」に至るまで、当時のまま。

もちろん原料も100%楮にこだわり、四国産のものを使用しています。  機械や化学薬品に頼ることなく、自然素材のみを使い古式製法でつくるには手間も時間もかかりますが、こうして作られた純正の和紙は柔らかく優しい風合いにできあがるのです。

渡されたバトン

3

泉貨紙でつくった一閑張りのカゴバック

 

簀桁を両手で握り、しなやかなリズムで行われる紙漉きの作業。

一見簡単そうに見えますが、厚みを一定に保ちながら漉くことや、漉き舟(※2)の中の原料が減っても同じ状態の紙を漉き続けるなど、素人目には分かりにくい高度な技術が何気ない動作の中で行われています。

10人で構成される鬼北泉貨紙保存会ですが、紙漉きができるのは今や平野さんただ一人。紙漉きについて「まだまだ分からん」と語る平野さんですが、確かな境地にいた師匠や先人たちの姿を思い描きながら日々紙漉きを行っています。

たまたま移住してきた地で、偶然にも始まった和紙づくり。そして気が付けば、いつの間にか手渡されていたバトンを今はしっかり握りしめ、平野さんは鬼北泉貨紙の新たな歴史をつくり始めています。

何もないから始まる

7

 

緑豊かな山々と澄んだ川が流れる自然に恵まれた鬼北町。

平野さんは鬼北町の魅力について「ここは何にもないんよ。何にもないのが、いいんだよ。」と親しみを込めて語ります。

その言葉から「何もない」ことが何かを生み出すきっかけになる、つまりは可能性の塊だということに、改めて気づかされます。

※1 簀桁(すげた) … 竹ひご、萱ひごを使って編まれた簀に桁を取り付けた紙漉きの道具のこと。
※2 漉き舟 … 紙漉き用の大きな水槽のこと。

この記事が気に入ったら
いいねで応援!

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう!

 
 
 

関連情報