【愛媛】竹細工職人/武智壽夫さん~しなやかに生きる~

 
 
 

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手に持った瞬間、ふわっと軽いのに、耐久性や使い勝手に優れた竹素材のカゴやバッグ。手に馴染む感じがどこか懐かしく、ほっとするところも竹ならではの魅力です。

ひと昔前は、家の中をぐるりと見渡せばザルやカゴなど様々な竹細工の日用品があったものですが、それらは新素材の誕生とともに今や希少なものとなりつつあります。

 しかしそんな中、美しい竹細工をつくる職人が愛媛にいます。武工房の武智壽夫さん。白漆喰の立派な商家が軒を連ねる愛媛南部の内子町で、趣きある民家を工房にして竹細工を製作しています。

ガラス戸はいつも開けながら

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 武智さんの工房があるのは、内子町の重要伝統的建造物群保存地区。週末ともなれば多くの人が訪れる観光スポット。

大洲出身の武智さんがこの地に工房を構えたのは、竹細工をより多くの人に知って見てもらいたいという想いからでした。ただひとり、ひっそりと製作に打ち込むのではなく、人と出会うなかで竹細工を広めていけたらと考えたのです。

 そのため、冬でも夏でも1年中工房のガラス戸を開けて製作をしています。私が工房を訪れた寒さの厳しい2月も、戸を全開にして作業を行っていました。

工房の室温は外とほとんど変わらず時には風も吹きこみますが、それでも「ガラス戸一枚がものづくりと人を繋ぐ障壁になってはいけない」と、作務衣の下にダウンジャケットを着て毎日製作をしている武智さん。人とモノを繋ぐためには、何らかの策が必要だということを知っているからこそできる武智さんの小さな努力。

それが功を奏してか、ご近所の方やふらりと訪れた観光客は自然な流れで会話が生まれ、気が付けば談笑に。武智さんの周りには、いつも優しい雰囲気と和やかな空気が流れています。

60歳を過ぎてからの挑戦

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 熟練職人の風格を感じさせる武智さんですが、実は定年退職後に竹細工を始め、この道を歩み始めてまだ6年というから驚きます。それまでは大阪の化学メーカーに勤め、研究器具などの製作に携わっていたそう。でも昔からものをつくることが好きだったこともあり、退職後に京都の伝統工芸大学校へ58歳で入学。ひと回りもふた回りも若い世代に混じって、3年間基礎を学びました。

 定年退職後に趣味を愉しむ方は少なくありませんが、武智さんの場合は少し違います。

「人生を変えるにあたって、酒もやめたね」。

その言葉からうかがえるのは、想像をはるかに超えた大きな決意。入学後は、朝一番に教室へ行き掃除をしてみんなを迎え、夜も1番遅くまで残って技術習得に必死に取り組むという熱心さ。第二の人生にかける想いは、人並み以上のものがありました。

 やるからには徹底したいという考え方は昔から。「どんなセクションだろうが、一生懸命努力してやらなきゃいかん」。会社員時代も、環境がどうであれ限られた時間のなかで最善の努力を尽くしてきたという武智さん。今も目標や成すべきことがあるから、朝から晩まで座りっぱなしの作業をしても、まったく苦にならないと語ります。

 時折り見せる体育会系のガッツと爽快な前進志向。お聞きすると、若い頃からトライアスロンに打ち込んできたそう。スポーツで鍛え上げてきた精神力と基礎体力、そして何より諦めないという強い信念が武智さんの技術習得の速さに繋がっているのかもしれません。

編み目文様の美

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 工房に並べられた作品のなかで、目を惹くのが文様のリズムが美しいバッグです。それは「網代編み」と呼ばれる伝統的な編み方で、竹の表現の豊かさを物語っています。網代編みに変化を加え、波のような流れる文様をつくり出している「波網代編み」も見事で、どうやって編んだのだろうと見入ってしまうほど。

 竹ひごの色を変えたり、編む間隔に変化を付けたりすることで、豊かな表情をつくり出しているそう。同じ竹ひごでも、編み方ひとつで全く違った印象になるところに、竹細工の面白さがあります。

  日常的に布や革のバッグは使っていても、竹のバッグを持っているという人はそう多くないはず。和装でないと持ちにくい印象もありますが、武智さんがつくるバッグは側面を革で仕立てたものや気軽に使えるポシェット型などもあり、気兼ねなく洋服に合わせられます。「つくるうちに、もっとこうしたらいいんじゃないか、この方がいいんじゃないかと思いつく」という武智さん。伝統的な手法を活かしつつ、今の時代にいかに使ってもらえるかを追求する熱い職人魂が、作品から伝わってきます。

しなやかに生きる勇気

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 「最初は不安だったなぁ。うまくいくのかなぁってね」。

当時を振り返り、本音をぽろりと話してくれました。何もかもが初めての60歳代からのスタート。人生経験が豊富だからこそ、たくさんの不安もあったとか。

 しかしスタートから6年経ち、武智さんがつくる竹のバッグは今や5ヶ月待ちという人気商品に成長しました。裏地や大きさなどセミオーダーできる竹のバッグは、使い手に合った仕様にすることができるため注目を集めています。でも「11点、丁寧につくりたい」。お待たせしてしまうのは申し訳ないけれど、焦らず丁寧に、竹としっかり向き合いながら日々製作に勤しんでいます。 

 常に挑戦することを忘れない武智さんの人柄が表れた作品は、生きていくためのしなやかな勇気を私たちに与えてくれます。そして何か新しいことを始めるのに、歳はあまり関係ないということも―。

武工房(たけこうぼう)
791-3310 愛媛県喜多郡内子町城廻227

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